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第27回 広がる課題、拡大する矛盾

この頃、ネットワークを利用したさまざまな機構の実現にむけてのニュースがやたらに目に付く。「商業登記を基礎とする電子認証制度」の実現であり、「電子帳簿保存法」であり、「有価証券の電子的届出」、「住民基本台帳ネットワーク」「電子署名法」など、枚挙にいとまがない。いよいよネットワーク社会が到来し始めた様子でもある。

「入札」や「選挙」なども、早晩ネットワークを利用した機構へと移行していくであろう。

繰り返すように、私がこだわっているのは「ドキュメントの電子化」にある。上に挙げたさまざまな動きも、多かれ少なかれ「文書の電子化」と関わっている。

例えば、先頃の選挙を考えても、投票のプロセスをネットワークに置き換えることができれば、海外在留邦人も海外在留のまま投票可能となる。ただし、ネットワーク上では、有権者の顔も見えないし、立会人の視線もない。いわゆる電子認証の仕組みを利用することによって、有権者本人の確認が電子的になされることも可能であろうが、それだけをもって公正な投票がなされたといえるのか疑問が残る。すなわち、投票用紙と言うドキュメントを用いた公民権の行使は、単純に電子メールを用いた構造に置き換える訳にはいかない。制度そのものの検討が不可避であろう。

また、入札においては、各企業の代表者の委任状を持った人々が、一カ所の部屋に集められて、見積書を作成し封筒にいれて入札箱に投函する。これがネットワークを使って実施するためには、顔の見えない端末利用者が、正しく委任された当事者であり、しかもネットワークを介して投函された見積書が、その当事者が作成したものと同じであり、途中で改ざんを受けていないことを確認できるような機構が必要となる。また入札行為に不公正が起こらないように、ある時刻を定めて見積者全員の札を一斉に開札する機構も必要となろう。

このように考えると、「ドキュメントを電子化」するということは、単純に「投票用紙」をメール伝達可能な形式に整えたり、入札時の「見積書を電子化」することでは実現できない。その背後にある、「ワークフロー(処理手続き)」自体が電子化のそれに相応した構造になっていないと、ネットワーク利用は不可能であることの事実に気がつく。大げさに言えば、ドキュメントの電子化とは、これまで疑問を持たずに受け入れてきた社会経済機構やルールを電子的なそれに置き換えることを意味するものと言える。
社会経済的な観点から見れば「ドキュメント」と総称されつつも、その役割は実にさまざまである。

1)記録としてのドキュメント
著者(制作者)が見いだした事実(ファクト)を記録する。利用者(読者)は特定されず、データが蓄積されることにより、さまざまな角度から利用されることとなる。

2)証跡としてのドキュメント
著者が職務上なした行為の結果を証跡としてとどめる。例えば契約の締結においては、当事者が契約締結の証しとして署名捺印し、疑義が発生した場合などに備えたルールとして利用される。また、オフィスにおいては、業務処理手順に従って、担当者の業務処理を確認するため、請求書や見積書、納品書、受領書など多種多様なドキュメントが発生することとなる。それぞれ、税務監査を含めた外部監査や、内部監査等に利用されることとなる。

3)公表のためのドキュメント
著者が、不特定の読者を前提に公表するドキュメントであり、いわゆる出版物や広告などがある。

4)文化遺産としてのドキュメント
いささか大げさにも聞こえるが、ドキュメントとは「現世代」の社会機構を運営するうえで必要とされるにとどまらず、次世代に文化を継承する媒体としても認識しておく必要がある。実際、伊能忠敬の伊能図や、洛中洛外図、また源氏物語や枕草子などは、われわれの先祖が子孫に継承してくれたドキュメントであり文化遺産である。

1,2に関しては、記録された内容が不正に改ざんされたものではなく、また正当な当事者が作成したものであることの証明が必要となる。また、非改ざん性を保証することは、ドキュメントの体裁(表記方法)を含めて非改ざん性を保証するのか、内容の非改ざん性を保証することなのかは1と2によって議論が分かれるところでもあろう。

3に関しては、その内容がプライバシ侵害に当たらないか、また著作権の保護が適切に施される機構であることが必要となる。4に関しては、変化の著しいソフトウエアやハードウエアに煩わされることなく、何十年も、場合によっては、何世代も継承できるものであることが求められる。

残念ながら、これら全ての要件を満足するような確立された電子化技術は見あたらない。当面、従来通りの紙媒体の利用も含めて利用可能な技術群の中から選択し、目的に応じてさまざまに組み合わせて対処するしかないと思われる。

迂闊にも「ドキュメントの電子化」を専業とすべく立ち上げた零細企業であるが、そのテーマの予想せぬ広がりに自分自身、呆然と立ちすくむこともある今日である。



執筆  菊田昌弘(前代表取締役)



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