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第13回 − ベンチャーに厳しい環境 −

昨年1年を振り返れば、いわゆる「不況」感が蔓延した1年であった。幸いにして、私自身は、この不況下にもかかわらず、さまざまに新しい仕事に取り組ませて戴ける多忙極まりない1年であった。ありがたいことと、今さらながら感じるところである。

私自身、設立3年あまりの零細企業であり、くどいように「ドキュメント」の電子化と言う、いわばニッチな領域にこだわったベンチャービジネス(?)である。

この歳になると世間でいう若手技術者が情熱を傾ける一般的なベンチャービジネスとはいささか様子が異なる。私自身は、シルバー・ベンチャーと自分の社を称しているところである。実際の話、オフィスの中もおじさん集団そのものであり、米国シリコンバレーに見られるような多少の矛盾も勢いの中で押しつぶしながら展開していく、若々しい集団とは程遠い雰囲気である。現在のところ、IPOをする計画もさらさらないし、外部からの資本を受け入れる予定も全くない。当然のことながら、いわゆるキャピタル・ゲインを狙った運営もしていないし、そのため社内にはストック・オプション制度などもない。資金繰りに際しては、自分自身の保証能力のなかで精一杯努力するだけである。

これらの側面を見れば、自分の腕一本を頼りに商いをしている零細の町工場と何ら変わりはない。(決して、町工場を卑下しているつもりは全くなく、むしろその生き方こそ、これからの日本経済の再生の源泉と信じるところである。)その意味では、零細企業とベンチャー企業との差は殆ど存在しないような気がする。当社の場合では、情報技術とやらに係っている点がベンチャー企業としての臭いが多少するだけである。

ところが、仕事柄米国の本物のベンチャーの方々ともしばしば関係を持つ。見方によっては、むしろ彼らから当社を探しだしてくれる場合もある。また、国内のいわゆるベンチャー・キャピタリストの方々や、大学で盛んとなったベンチャー講座の方々からの接触もある。どうも外部の方々の見方はベンチャーとして捉えられているようにも思える。このあたり、私自身戸惑うところでもある。

一方において、昨今の情勢のもと、第三次ベンチャー・ブームとやらで、続々と立ち上がった日本の(いわゆる)ベンチャービジネスの雲行きも怪しくなってきている。倒産などと言う言葉も時折聞こえてくる。一方、米国においては、華々しく展開したベンチャービジネスが何時の間にか、第三者の傘下に入っていたり、模様替えを繰り替えしている。その中で創業者は、そのビジネスを離れてもしっかりとキャピタル・ゲインを得て、また次のビジネスを創業したりしている。日本の場合は、一旦退場宣告を受けた創業者が、再度登場することは殆どない。どうにも失敗が許されない村社会である。

以前にも触れたのであるが、彼我のベンチャー環境の違いは著しいようであり、どうもその本質は(多少のこじつけを含めて)、情報の社会に対する扱われかたにあるようにも思える。すなわち、米国では創業者が提起した新しいビジネスや技術が、ポテンシャルがあれば、例え実態が赤字であろうとも投資対象となり、また初期に投資した人間は、多額の利益を得ている。他方、日本においては、「安全・確実」なことが投資要件であり、しかもこの「安全・確実」は、投資家自身が判断するのではなく、誰かの判断を根拠に投資がなされている様子がうかがえる。すなわち、事実(ファクト)情報よりも、誰かの判断情報が優先される社会である。ここに、わが国に根強くある「もたれあい構造」を感じるところである。

ただし、実際にはベンチャーの経営は米国でも大変な様子である。特に最近では、IPO(初期株式公開)が成功してもそれ以降株価を維持するために、次々と目くらましに近い新しいアイデアを出し続けなければならない様子が目立っている。当初のアイデアが市場における評価を得る前に、すなわち、創業者が提起した新しい機構のもとに実際に市場が形成される以前に、競争者が誕生し実際の市場形成とは別に、競争者との差別化に腐心しなければならない様子がうかがえる。その結果、いつまでたってもPL(損益)は改善されずに、投資家の投資意欲を維持することに努力が集中しているようである。
単純に言えば、米国のベンチャー企業の実態も、21世紀の新しい社会構造を構築していくと言う本来の目的とは別途に、当面の株価維持に躍起となっている印象が強い。

一方、第三次ベンチャーブームとやらの日本の実態も、必ずしも提起された新しいビジネスの本質の検討を踏まえずに、まさしくブームのなかで、ベンチャー・キャピタルが、多額の投資を行い、金融機関の融資を募った結果、何時の間にか金融機関向けの説明を必死になって行わざるを得ない状況に陥っている様子がうかがえる。
いずれも、ベンチャーとやらに今日期待されている本質とは違う戦場で、体力を消耗しているように受け止めざるを得ない。

今年は、いよいよ21世紀へのどん詰まりの年でもある。これまでの規格化を旨とする工業社会の終焉の年でもあり、新しい社会構造への脱皮が急速に展開される年とも考える。
今年こそ、本来の意味での新しい企業の活躍が健全に実現されるインキュベートの年であって欲しいと願っている。



執筆  菊田昌弘(前代表取締役)



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