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第11回 − 情報は人間だけのものか? −

実は、私はこう見えても(といっても読者の多くの方は私の姿をご存知ないと思いますが)生物化学が専攻であり、現在の業界とはいささか趣きを異にしている。特に、自然保護に関しては、未だにいろいろな方々との交流を戴いている。
私の今日の飯の種は、ご承知戴いているように「情報」とりわけドキュメントの電子化にある。とはいっても、未だ存分に生活をまかなうにまで至ってはいないが・・・。

「情報技術」と「自然」とは無縁な領域であるようにも思われるが、最近必ずしも無関係ではないように感じはじめている。
今回、多少強引ではあるが、自然保護と情報を考えて見たい。

日頃、私はドキュメントと総称される情報をどのように、ネットワーク上に流通・交換可能とするかを考えている。その前提としては、われわれ人類が使っている言葉や文字によって表現されるものを「情報」としている。すなわち、言葉や文字によって表現される情報や知識を、どのように電子に置き換えるかの仕事と考えても良い。
ただし、実際には情報の伝達は、必ずしも人間の特権ではないようだ。ご存知のように働き蜂はダンスによって蜜や花粉の存在を仲間に伝達しているし、犬の遠吠えも仲間に対する何らかの情報伝達の意味があるのであろう。また、人間の見える可視光では、見ることができない色が、昆虫には見ることが可能であり、その色で雌雄を判断したり、花の中での蜜の場所を判定できることなどが慶應大学SFCの武藤 佳恭先生の「第3の目」プロジェクトで研究されている。

過日、久しぶりに自然保護活動を実際に行っている方々の会合に出向いた。鳩ヶ谷で「とんぼ公園」を作ろうとなさっている鎌奥 哲男さんを中心とする方々であり、先日某TVでも紹介されたので、思い当たられる読者もおられるであろう。その場で、懐かしい方々とお目にかかれたのと合せて、面白いお話をうかがった。「植物」と「昆虫」との間の情報伝達である。
財団法人日本環境フォーラム理事長北野 日出男先生の講演でのお話である。
北野先生は(若いときにご指導を戴いた先生の一人である)「アオムシコマエバチ」と言う寄生蜂の研究の第一人者であられる。この蜂は、名前の通りモンシロチョウの幼虫であるアオムシに産卵し寄生することによって子孫を増やしている。いわば、アオムシの天敵である。 モンシロチョウはアブラナ科の植物に産卵し、キャベツなどの葉を食べて成長する。いわばキャベツの天敵である。

登場人物は、このキャベツとアオムシ、またアオムシコマエバチである。
キャベツは、アオムシが増殖すると瞬く間に食い尽くされてしまう。仮にキャベツが、アオムシコマエバチに向けて「Help!」と叫ぶことができれば、また蜂がその叫び声を聞くことができれば、アオムシに取り付かれたキャベツは、声を限りにアオムシコマエバチを呼び寄せ、アオムシを退治してくれと頼むのであろう。

うかがった話によると、実際にはキャベツとアオムシコマエバチは、何らかの情報交換を行っているとの仮説が成立するようである。もちろん、キャベツが声を出す訳でもなく「アオムシがここにいる」とプラカードを立てる訳でもない。アオムシがキャベツをかじってその唾液(体液)とともに発生する化学物質が、アオムシコマエバチを誘引するようである。すなわち、化学物質によるキャベツのヘルプメッセージである。この物質を感知することにより、アオムシコマエバチはアオムシの存在を認識するようである。
同様の話は、例えばアリにもあり、あるアリが危険な目にあうと、危険を告知する物質を出し、仲間のアリに近寄らないように情報伝達するようである。

こうやって考えると、自然界においては、昆虫対昆虫、昆虫対植物、鳥類対昆虫、鳥類対哺乳類などの間に、我々の想像を超えたコミュニケーションがあるのかも知れない。
このコミュニケーション機構により、アオムシが一方的に増殖することを押さえるなど自然生態系のバランスを巧みに調整しているようにも思われる。「情報」とか「知恵」の共有・伝達が我々人間に与えられた特権のように考えることは、いささか思い上がりとも思えてくる。



執筆  菊田昌弘(前代表取締役)



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