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第10回 アジアから見たネットワーク

− にわかにあわただしくなったディジタル・ドキュメント −

いやはや、この2週間程、けたたましいスケジュールであった。1週間程、シリコンバレー周辺に滞在し、一日だけ日本に戻って、SGML/XMLカンファレンスの予稿集を投稿して、翌日からタイに出向き、帰国した翌日に、日本でのカンファレンスで話をするはめに陥った。
しかも、例のノースウエストのストライキとぶつかり、飛行機の便もやりくりせざるを得ず、普段の行いの悪さがいっきに吹き出したような、悲惨なスケジュールとなってしまった。何とかやりくりしたものの、未だにこの間に放出したエネルギーを、再生できずにいる。

いずれも、ディジタル・ドキュメントに関連したイベントである。私も、長らくこの世界に関わっているつもりであるが、日本語の文法がどうの、ネットワークがどこまで対応するの、それこそ辛気臭い、地味な領域として心穏やかに取組むテーマと認識していたのに、ここに来て急に様子が変わってきた模様である。
シリコン・バレー周辺のニュースに関しては、本コラム読者諸兄は辟易する程の情報に接して居られると思うので、今回私が係ったタイでの様子をお話させて戴きたい。

今回、タイに出向いたのは、電子図書館の国際ジョイント・ワークショップ(IJWDL'98)で、XMLのチュートリアルを担当させて戴くことを目的としたものである。
主催者は、タイ国立アジア工科大学(AIT)、Kasetsart大学工学部、王立タイ図書館協会であり、日本からは、図書館情報大学と文部省学術情報センターが協力している。

電子図書館を簡単に表現すれば、次世代の図書館として、ネットワークを活用し、地球のどこからでも各図書館が所蔵している書籍を参照したりすることができる機構として捉えることができる。某社のテレビコマーシャルにおいても、米国の農夫が、インターネットを経由して、大学図書館の資料で勉強し学位を取得した旨の様子が流れているのをご覧になった方もあろう。
実際、私がこだわっているドキュメントの電子化を高度に応用した一つのアプリケーションとして、電子図書館は極めて身近な応用事例となろう。日本においても、学術情報センター始め、国会図書館や図書館情報大学、また最近では特許庁が推進している特許電子図書館構想などが推進されている。

今回、タイに出向いて改めて感じたのだが、どうも我々は欧米の資料を、便利に参照できることを目的としてネットワークを考えがちであるが、図書館のように、今後何世代にも亘って、文化文明の礎としてドキュメントを継承していくためには、もう少し広い見地から取組む必要がありそうである。
皆さんご承知のように、タイにおいては、あのエレガントなタイ文字を使用している。私は、全くその文字を読み取ることができないが、タイにあっては、歴史とともにその文字を使った書籍群の形成がなされ、蓄積されているはずである。
電子図書館が実現されれば、日本のタイ文化研究者も容易にその文献を参照することができ、新たな発見をすることもできよう。
同様に、日本の古文書も、世界の研究者に提供したり、海外に流出している貴重本も、日本にいながら参照することも可能になるであろう。

このように考えると、電子図書館は我々に大きな夢を与えてくれる。アラビアン・ナイトや紫式部、山田長政の世界から、月の土壌の組成まで、我々の興味に応じて、多様な情報が世界の各地から瞬時に、皆さんの家庭に届けられることとなろう。
タイにおいても、このような取組みが開始され、出席者の方々も多数、熱心に参加されているのには、感銘を受けた。XMLなどという、ここ1∼2年の間の出来事についても、熱心にメモを取られている様子に敬服するばかりである。

ただし、ネットワーク文化も(他の情報技術全般と同様)欧米文化の典型ともいえる枠組みにある。英語を使った情報交換においては、極めて容易にその特性を発揮してくれるが、タイ語や日本語などの世界に適用するためにはさまざまな制約がつきまとう。

私自身、一生懸命にXMLの概略をご案内したつもりであるが、残念ながら、XML自体の形成は米国中心に進められているものであり、受け売りの域をでない。国際的な電子図書館機構の展開を考える上では、単純に欧米流の機構をアジア地域に適用すると言う立場ではなく、文化・歴史的背景を異にする様々な文化の方々が、それぞれの立場から参画し、協調的に枠組みを構築していくことが求められよう。
また、XMLに関わっている方々(欧米人)も、そのような意味で我々からのアプローチを待っている様子が確実にある。

ネットワーク時代とはボーダレスな社会形成の時代をも意味する。我々アジア人はアジア人なりに、新しい社会機構形成への積極的な参加を行っていくべき時を迎えていると感じたのが、今回タイで講演を行った時の実感である。



執筆  菊田昌弘(前代表取締役)



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