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第1回 「紙」から「電子」へ 山積する課題

以前、興味ある新聞記事を見た。「環境庁では520人の職員が年間110トンの紙を消費している」そうである。霞ヶ関全体およそ4万人の職員として大胆に推計すると、霞ヶ関の官庁街全体として紙の使用量はおよそ8000トンになる勘定である。
この数字をもとに思いをさまざまに巡らせてみた。単純に換算して16億枚相当と思われる紙の消費量は、職員一人当たりに直すと年間4万ページとなる。「日本のお役人がいかに書類に追われているか」びっくりする。また環境保護論者的に考えれば、何ヘクタールの森林が毎年失われるのか心配にもなるし、ごみ処理場は大丈夫かなどと考えたりもする。日頃、馬鹿に高いオフィス費用を工面している私にとっては、8000トンの紙が年々蓄積保管されるオフィススペースとコストは、どれくらいになるだろうと貧乏臭い心配もしたくなる数字ではある。
一方、永らく情報技術にかかわってきた(しかも、いささかエキセントリックなものの見方をする癖のある)私には、この数字はネットワークを考えるヒントを与えてくれる。

言うまでもなく、この膨大な量の紙は、情報を表現するために使用されているはずである。すなわち関係部署に対する「指示書」となったり、国民に向けての「情報公開」媒体となったり、また将来に向けての記録として保存するために用いられるものであろう。その結果として霞ヶ関という日本の行政機構の中心地では、上記の量の紙を年々消費している訳である。この紙媒体を前提とした情報連絡のために、コピー機やファクシミリが普及し、郵便制度が発達し、車が走り回り、地方自治体の職員の方々が風呂敷きに包んだ書類をもって霞ヶ関に駆けつけ、また締め日とされる5・10日(ごとーび)に交通渋滞が発生する要因ともなっているのであろう。

思えば、人間は有史以来、紙を媒体に情報を表現してきた。この「紙」媒体を前提に、永い歴史をかけて社会制度や経済機構や、さまざまなルールが作り上げられてきた。しかるに今日はネットワーク時代であり、情報の電子化の時代とされる。
情報の電子化は紙に替わる情報表現手段を実現し、またネットワークは電子化された情報を、瞬時に地球上のいたるところに伝達可能とする。ちなみに、8000トンの紙情報を全てCD−ROMで置き換えたとすれば、およそ120kgで済む計算である。また、全てが郵送されると仮定して、1封筒あたり5枚の紙として推計すれば3億通の郵便物が消失するに等しい。
もちろん、この推計はあまりに乱暴であるが、情報の電子化とネットワーク利用が実現されたとすれば、情報そのものの総量を変化させることなく、重量がおよそ7万分の1となり、交通負荷が激減し、しかも瞬時に情報伝達が可能となり、国民経済的に考えた場合の社会コストは大幅に節約可能となろう。最近騒がれている行政改革なぞ、すぐにも成し遂げられそうな思いすらしてしまう。
ただし、人類が永い歴史をかけて形成してきた「紙」情報を前提とする社会機構や経済機構を「電子」のそれらに置き換えるためには、克服しなければならない数多くの課題もある。

いささか唐突かもしれないが、一つの側面として「文化の継承」としての情報の問題を考える必要があるのではないだろうか?今日でも旧家から昔の書簡が発見されたりする。紙に書かれているため文字の判読力さえあれば昔の情報を読み取ることができる。しかるに電子化した場合、何世紀も後の我々の子孫は、電子化情報の中からどのように情報を発見するであろう?今日でも、毎月のように新しいバージョンがでているブラウザが何世紀にも亘って利用され続けると考えることには無理がありそうだ。

もう一つの側面として「監査証跡としての情報」を考えてみたい。今日、日本においては商取引においても、また行政機構にあっても、しかるべき責任者の印を押した書類が証拠能力をもった情報として扱われる。その書類(証拠)によって、企業の収益が判定され、課税計算などがなされる。はんこ文化である。米国ではサインによるものであろう。しかるに電子化された情報には、捺印も署名もしようがない。昨今話題を集めている電子商取引といえども、「商取引」としての要件を充たす必要があるのは当たり前である。単純に、はんこやサインに替わる証拠能力をもった電子書類とは、どのような構造となろうか?

さらには、電子情報の機密を保持するための仕組みや、著作権等の扱いかた、またネットワーク・エチケットにかかわる問題などなど、電子情報を社会的に利用可能とするには解決すべき課題が幾つもありそうだ。
これらが、電子化情報の問題とするならば、逆に電子化情報だからできることもまたたくさんありそうだ。いわくCALSであり、遠隔医療であり、遠隔教育機構など、紙では実現が難しいとされた課題についても、電子化することによって何とか解決可能となる問題もまた数多く考えられる。

このコラムを利用させていただき、読者諸兄とこれらについてすこしづつ(bit by bit)考えて行きたい。



執筆  菊田昌弘(前代表取締役)



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